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「東洋医学とは|基礎知識を専門家が解説」

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「東洋医学とは|基礎知識を専門家が解説」

東洋医学とは、アジア諸国で発展・発達した医学を示しますが、日本では、一般的に中国医学を起源としたものを「東洋医学」としていることが多いです。ここでは、東洋医学、漢方、中医学について解説していきます。

1.東洋医学とは
2.東洋医学のカラダの仕組み
3.東洋医学の治療法
4.東洋医学と漢方・中医学

1.東洋医学とは

「東洋」とは、現代の日本では一般に、「西洋」の対義語として、トルコよりも東方、アジア諸国の総称として用いられています。よって「東洋医学」とは、広くは、アジア諸国で発展・発達した医学を示し、ユナニティブ(イスラム医学)、アーユルヴェーダ(インド医学)、中国医学(東アジア医学)などを含む概念ですが、日本では、一般に中国医学を起源としたものを「東洋医学」としていることが多いです。なお、中国では、「東洋」は「日本」と同義として用いられるため、中国では、日本の伝統医学のことを東洋医学とされています。
「西洋医学」は欧米諸国で発展・発達した医学で、一般に「現代医学」と呼ばれるものと同義で用いられています。
ここでは、「東洋医学≒中国医学(東アジア医学)」として解説していきます。

東洋医学は、古代の中国に発生した医学理論・技術を源流とするもので、気、陰陽、五行、天人合一、心身一如などの哲学・思想を背景としています。特に、陰陽学説は重要視され、相反・対称的な2つの要素が多少の変化をしながらも偏りなく調和がとれている状態が良いとされ、病気の治療には陰陽の調和が原則となっています。
例えば、あまり動かずに同じ姿勢を続けていたりすると、気の流れが滞り、肩コリなどの症状が起こりますが、これに対して、カラダを動かしたり、手技療法(マッサージなど)や鍼治療をすると、気の流れを良くなり、コリ感を改善させることができます。これは「静」に対して「動」のバランスを整えることで陰陽の調和を図っています。

2. 東洋医学のカラダの仕組み

東洋医学では、ヒトのカラダを構成する基本的な要素を、気・血・津液(水)・精と考えています。
○ 気 :カラダを動かす原動力・エネルギー
○ 血 :カラダの中を流れる赤い液体
○ 津液(水) :カラダの中を流れる血以外の液体
○ 精 :気や血などの基になるモノ
これらが過不足なく、バランス良く、滞ることなく順調に流れている状態が健康で、何かが不足したり、バランスが崩れたり、流れが滞ってしまうとカラダに不調が起こると考えています。

また、ヒトのカラダの働きには、臓腑・経絡が関わり、その中心を担うものを五臓と考えています。
五臓とは、五行学説に基づくもので、肝・心・脾・肺・腎の5つの臓です。これに胆・胃・小腸・大腸・膀胱・三焦の6つの腑を合わせて五臓六腑(臓腑)と呼ばれます。

東洋医学で考える臓腑は、西洋医学で考える臓器と同じ名称のものが多くありますが、その働きは全く同じというわけではありません。例えば、腎という臓は、西洋医学で考える腎臓という意味ではなく、老化現象や排泄機能(尿・便)、生殖能力、認知機能に関わり、骨、脳、髪、耳などの組織・器官に影響が及ぶものと考えています。

大まかな五臓の働きやそれぞれが関連する領域は以下のとおりです。

○肝:自律神経や情緒などの調節に関わる臓腑
・疏泄
疏泄とは、気の動き・流れを調整する働きで、全身の気の流れがよくなると、睡眠・食欲・精神状態などが安定します。
・蔵血
蔵血とは、血を貯蔵する働きで、疏泄と合わせて血流量を調節します。血を貯蔵し、必要に応じて分配されることで、目の疲れ・頭痛・めまいなどの症状を予防することができます。
・筋、爪、目
肝の状態は筋、爪、目にあらわれます。肝の働きが悪くなると、筋の伸び縮みが悪くなり、つりやすくなったりします。また、爪の艶がなくなり、割れやすくなる、目の乾燥や目のかすみなどが起こるようになります。
・怒
肝の働きが悪くなると、イライラしたり、怒りっぽくなったりします。

○心:精神・意識をコントロールし、血を全身にめぐらせる、五臓の中で最も重要な臓腑
・主血
主血とは、血を脈中に通して、全身に送る働きで、心の働きがよくなると、血がうまく循環するため、正常な心拍数で、リズムなども安定します。
・心神
神とは、生命活動・精神活動のことで、心は神をコントロールしています。心の働きが悪くなると、意識を失ったり、情緒不安定になったり、言動が不穏になったりします。
・顔、舌
心の状態は顔面や舌にあらわれます。心が正常に働くと顔色はよく、明るい表情になりますが、心の働きが悪くなると、顔面蒼白など、顔色が悪くなります。また、舌の動きに関わり、呂律が回りにくいなどの症状が起こります。

○脾:消化・吸収に関わり、気血の生成に関わる臓腑
・運化
運は運ぶこと、化は消化・吸収のことを意味しています。口から摂取した飲食物をカラダにとって必要な栄養分として吸収し、気血を生成します。
・統血
統血とは、血を漏れ出さないようにする働きで、脾の働きが悪くなると、脈外に漏れ出やすくなり、内出血が起こりやすくなったり、血尿・血便・不正出血などの症状が起こります。
・肌肉・口・唇
脾の状態は、肉付きや唇、口にあらわれます。脾の状態が悪いと気血が生成されずに栄養状態が悪くなり、痩せてしまう、あるいは、カラダにとって不要な余分なものとして蓄積させてしまい、肥りやすくなります。また、唇の色が悪く、艶がなくなったり、味覚の異常などの影響が出ます。

○肺:呼吸をコントロールし、気・津液(水)を全身に巡らせる臓腑
・主気
主気とは、全身に気を送る働きで、体表部に気をめぐらせてバリア機能を高めたりしています。
・宣発、粛降
宣発とは、上向き・外向きの気の動き、粛降とは、下向き・内向きの気の動きを意味しています。宣発と粛降の協調運動によって、気・津液(水)を全身にめぐらせ、呼吸を調整しています。
・通調水道
通調水道とは、津液(水)をめぐらせたり・分散させたりする働きで、カラダに栄養と潤いを与えます。
・皮毛、鼻
肺の状態は、皮膚や体毛、鼻にあらわれます。肺の状態が悪いと皮膚が乾燥したり、痒みが起きたりします。また、鼻水、鼻づまりなどが起こるようになり、花粉症などが起こります。

○腎:成長や発育、老化現象、生殖能力に関わる臓腑
・蔵精
蔵精とは、精を貯蔵する働きです。精は気血の元になるもので、遺伝子やホルモンなどとも関わります。腎の働きが悪くなると、精が不足し、老化現象が早まり、生殖機能も衰えるようになります。
・主水
主水とは、水分代謝を調節する働きで、尿を作り出したり、排出させたりすることでカラダの水分を調節しています。
・納気
納気とは、気を深く納める働きで、呼吸を深くしたり、失禁などを防いでいます。腎の働きが悪くなると、浅い呼吸になったり、尿漏れや失禁などの症状が起こります。
・髪、耳
腎の状態は髪や耳にあらわれます。腎の状態が悪いと抜け毛や白髪が出たり、髪の毛の艶がなくなります。また、耳鳴りや難聴などの症状が起こります。

経絡とは、経脈と絡脈をまとめたもので、気血の通路、つまりはエネルギーのルートと考えています。経絡には、臓腑と身体各部および体表を連絡する通路としての役割があり、経絡上にあるポイントを経穴(いわゆるツボ)といい、あらわれている反応からカラダの状態を推察するとともに、治療点として用いられています。

3.東洋医学の治療法

このように、東洋医学では、臓腑の働きにより、気血が、経絡を通じて身体各部に行きわたることで、生命活動が行われており、臓腑、気血、経絡などの変動や不調和によって様々な症状が起こると考えています。治療にあたっては、そのアンバランスな状態がどのようなものかを分析し、個人に応じた方法が取られます。例えば、気が不足している人であれば、気を補う働きがある薬を処方する、肺の働きが悪い人であれば、肺と繋がる経絡・経穴を鍼で刺激するといったものです。

東洋医学による治療法には、鍼(物理療法)、灸(温熱療法)、湯液(薬物療法)、按蹻(手技療法)、気功・導引(運動療法)、薬膳(食事療法)など、様々なものが含まれます。中国の中医師、韓国の韓医師など、世界的には医師もしくはそれに準じた教育がされたライセンス保有者が担っていますが、日本では、特殊な資格制度であるため、医師だけでなく、薬剤師、鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師などによって、病院だけでなく、漢方薬局、鍼灸院、あん摩マッサージ指圧治療院など、それぞれの場所で行われています。

4.東洋医学と漢方・中医学

古代の中国で発生した東洋医学ですが、紀元前200年頃(前漢)から220年(後漢)の頃にかけて、体系的にまとめられるようになったと考えられており、この頃に編幕された『黄帝内経』『傷寒雑病論』『神農本草経』といった古典は、現代においても実用書として役立てられています。
日本と中国との交流の始まりは、日本では弥生時代、中国では後漢の時代とされ、この頃から様々なものが日本に伝えられ、漢の文字として「漢字」も伝わったことで、隷書体、楷書体、明朝体などと書体が変化しながらも現在まで漢字が用いられています。ちなみに、近年でもよく用いられている明朝体は、明代(中国での明という王朝の時代)以降に成立した書体です。
日本における東洋医学の歴史は、6世紀~7世紀頃(日本では飛鳥時代・奈良時代)からとされています。遣隋使(当時の中国の王朝である隋に派遣した朝貢使)や遣唐使(当時の中国の王朝である唐に派遣した朝貢使)により、当時の中国との正式な交流が始まり、仏教などの大陸文化が導入されるとともに、医療文化も大量に日本に持ち込まれるようになり、701年に施行される大宝律令では、医療法制を定めた医疾令があり、医学教習書として漢代~六朝時代の医学書が教科書として指定されています。以降、時代変遷とともに日本独自の発展をしながら、東洋医学は日本の医学の本流として活用されてきました。
17世紀(江戸時代中期)になると西洋医学が台頭するようになり、東洋医学と西洋医学とを呼び分けるようになります。当時、鎖国下にあった日本では、オランダを通じてのみ、西洋(ヨーロッパ)の文化・学術などの近代諸科学と接することができたため、オランダ語で西洋(ヨーロッパ)の文化や医術などを研究する学問を「蘭学」、オランダから伝わった医学を「蘭方」と呼ぶようになり、蘭方に対して、漢代より伝わり、それまでに行われていた東洋医学は「漢方」と呼ばれるようになります。
この頃の有名な書物に『解体新書』があり、主に『ターヘル・アナトミア』を底本として翻訳・出版された解剖書ですが、翻訳に用いられた語句として東洋医学の用語が多く当てられてしまっているため、東洋医学と西洋医学とで同じ語句でも概念に差異が生じている場合があり、その名残が現在にまで続いています。
本来、「漢方」とは東洋医学全般を示す用語で、カラダの働きや病気の考え方、治療法などを含めたものです。そして、東洋医学による治療法には、鍼(物理療法)、灸(温熱療法)、湯液(薬物療法)、按蹻(手技療法)、気功・導引(運動療法)、薬膳(食事療法)など、様々なものが含まれますが、近年では「漢方」は一般的に「漢方薬」を示すものとして用いられていることが多く、古典籍に基づく薬物療法を「漢方医学」、いわゆるツボを鍼・灸で刺激する物理・温熱療法を「鍼灸医学」、両者をまとめて「東洋医学」と呼称していることもあります。また、「漢方」は「蘭方」に対して用いられるようになった語句であるため、日本独自の表現で、日本の漢方薬を示す語句として「日本漢方」や「和漢」、「KAMPO」など、中国との区別をするように用いている場合があります。
「中医学」とは、現代中国で行われている伝統医学の体系で、東洋医学を論理的に体系立てて学習することを可能にした理論です。広くは「中国伝統医学」と同義として用いられますが、清代末から中華民国時代に西洋文化、西洋医学が導入されるとともに、中国伝統医学は非科学的とのレッテルを貼られ、排斥の対象にされた時期があり、中華人民共和国成立後、1955年以降に中華民国時代の討論を踏まえながら、理論的概括が行われ、整理・集約され、マス教育に適応する教育体系にまとめ上げられているため、日本では、教育教材が作られるようになってからのものを「現代中医学」、それ以前のものを「伝統中医学」と呼び分ける場合があります。

かなり大雑把にまとめると以下のようになります。

東洋医学:古代の中国で発生し、日本に伝来して、活用されてきた伝統医学。
鍼(物理療法)、灸(温熱療法)、湯液(薬物療法)、按蹻(手技療法)、気功・導引(運動療法)、
薬膳(食事療法)など、様々なものが含まれる。
漢 方:日本の東洋医学。特に薬物療法(いわゆる漢方薬)を示す。
中医学:中国で行われている東洋医学(伝統医学)。
     ※中国では「東洋医学」とは呼ばれない。

<執筆者>
小髙直幹(ODAKA NAOKI)
高等学校卒業後、介護福祉士養成校に進学。介護福祉士免許を取得。
その後、老人保健施設での勤務を経て、鍼灸師(はり師・きゅう師)養成校に進学。はり師、きゅう師免許を取得する。
東京衛生学園専門学校 臨床教育専攻科を卒業し、鍼灸師養成校の教員資格を取得。
2007年より東京医療福祉専門学校の専任教員として在籍し、教員として授業を行う傍ら都内治療院にて鍼灸臨床に従事、現在に至る。
【主な活動歴】
『新版 東洋医学概論』(2015年、医道の日本社)、公益社団法人東洋療法学校協会(編)、教科書検討小委員会 (著):教科書検討小委員会のひとりとして共同執筆
『新版 東洋医学臨床論(はりきゅう編)』(2022年、南江堂)、公益社団法人東洋療法学校協会(編)、教科書検討小委員会 (著):教科書検討小委員会のひとりとして共同執筆
2017年より一般社団法人日本中医薬学会 評議員、事務局幹事

【保有免許・保有資格】
介護福祉士免許
鍼灸師(はり師・きゅう師)免許
鍼灸教員資格